トラウマ対策のヨガ:身体の声を聴いて、楽をする選択

うつ病やトラウマ、あるいはがんなどで気持ちが落ち込んでいる方へのヨガセラピーとして、ポーズ以外にもこんなセッションを含んでみてはいかがでしょうか。それは「今を観察し、今この瞬間の最善を尽くす」という練習です。 

本当に選択肢はゼロだろうか
生徒さんに、今自分がいる環境を見回し、自分がどんな気分か自問してもらいます。 今の環境で十分快適ですか?と訊ねてみます。もし、もう少し気持ちよくなれそうだったら、どんなことでもしてみてください。と誘ってみます。 例えば姿勢を変えてみるとか、すわりやすいように毛布やブロックを持ってくるとか、教室が息苦しかったら窓を開けるとか、なんでもいいのです。ほんの小さなことでも生徒さんが自分の力で、自分がいるところを、安全で快適な場所に変えられるということに、気づいてもらうというワークです。 

鍵は姿勢 
実際やってみると、やはりヨガ教室だからでしょうか。ほとんどの生徒さんは姿勢を変えます。でも、やはり姿勢こそが今を快適に生きる鍵を握っているのだと実感させられます。 (わたしもよく、伸びをします。しらずしらずのうちに縮んでいるんですね)

身体の声を聴いて、自分で決める練習 
このように、自分の選択がいい結果を招くということを信じられるようになることが、セラピーのひとつです。ふさぎ込んでいるとき、私たちは「まったく選択肢がない」ように感じてしまいます。ヨガという「身体の声を聴く」ことがどうしてセラピーになるかというと、身体の声を聴くことで、いろんな選択肢を自分で選べるという経験をしてもらえるからです。例えば、肩をまわして痛みを感じ、小さくまわすことで痛みが和らぐなら、そちらを選んでもらいましょう。腕を上げるのをしんどく感じるなら、今はあげないで呼吸に専念するという選択肢もあるのです。大切なのは、誘導する先生が、あなたが気持ちいいように決めていいんですよ、ということをちゃんと伝えることです。 

自分の体がどう感じているかを観察して、そして自分で決めること。それは、手取り足取り全てをサポートすることではなく、自分で選ぶことを応援する姿勢です。 

自分の運転手は自分 
トラウマや鬱の人にとって、自分の人生は人ごとのように思えるといいます。 辛い状態のまま行き詰まったままのときは、往々にして自分の体を大切できなくなっています。痛みがあっても投げやりになり、自分の体を痛めつけてしまいます。自分を大切にするどころか、自己嫌悪の連鎖が始まります。

ヨガとは自分の人生を大切にすること
これには、ヨガのポーズらしいポーズは含まれていません。しかしちょっとしたことで快適に過ごせる方法は皆無ではない、ということを経験してもらうセラピーから、ヨガとは何なのか、今の自分を大切にして生きるとはどういうことなのかが、わかってくるかもしれなせん。
2012.05.04 Friday 13:47 | ヨガとPTSD (トラウマ) | comments(0) | trackbacks(1)

トラウマ対策としてのヨガを考えるワークショップ in 仙台

2012年1月14日、15日に行われた仙台でのトラウマ対策としてのヨガを考えるワークショップ/リストラティブヨガ入門講座にはヨガの初心者の方から地元でヨガの指導に精力的に携わるヨガの先生まで、様々バックグラウンドの方にご参加いただきました。
何より、東北という今回の震災で東北が受けたダメージへのこころの痛みを打ち明けあう場がこれまであまりありませんでした。

2011年を振り返って、実に多かった声が「無意識のうちに頑張りすぎてしまった」「弱音を吐けなかった」「一見普通の中にあるストレスー高い野菜を買わざるを得ない、など」「メディアの映像は見れなかった」「ヨガをしている私ですらこれほどのストレスなのに、していないひとはもっと逃げ場がないのではないか」「絆という考えに逆に執着してしまった」「風邪を引きやすくなった」「年末ついに体調を崩した」などでした。

そして私自身、とてもショックだったのが、仙台に出発する前に関西の方々からいただいた「関西でも(震災のトラウマは)まだ終わっていません」というお便りでした。阪神大震災から17年。月日は巡り、トラウマもそれぞれの人生にそれぞれの影響を与えてきたのだと思います。まさに、私がアメリカで聞いた「〜トラウマは生まれつき私たちに誰にでも潜在的に起こり得て、そして続いていくもの〜」という言葉がいよいよ実感を増してこころに響きました。

下記に、当日使用したハンドアウトの内容をご紹介します。文章だけではお伝えできることに限りがあるかもしれませんが、これをお読みになったヨガの先生方はきっとなにかインスピレーションが湧き、身近な方々にお伝えできることもあるかと思います。震災支援はマニュアルではなく、人づてです。ヨガがメンタルケアに一役買えるかもしれない、という空気をどうか広げていっていただければと思います。

講座では特にヨガセラピーにおける「プロトタイプ(試作品)」をつくることの大切さについてお話ししました。具体的に、このような方々に、こんなことをやってみたい、と思い立ったときはぜひ、サンプルクラスを自分なりに書き出してみましょう、ということです。そうすることで、実際にやってみる上での難しさや改善点がみえてくるからです。テキストにも書きましたが「やってみる前からそのアプローチが効率的かどうか悩んでも仕方がありません。やってみて、効果が上がるように探っていくのです」プロトタイプをつくることの大切さは、スタンフォードのビジネススクールでも声高に教えられてます。

また、一つ目に紹介したポーズを教える上でのポイントは (1)吐き出しやすいポーズであること (2)説明しやすいこと (3) たくさんのやり方の応用がある(座布団を挟む、寝転ぶなど)(4) 股関節から無理なく曲げやすいこと、ということです。 

リストラティブヨガのワークショップでは、リストラティブヨガが初めてという先生方にも、普段のクラスに組み合わせてもらいやすい簡単なポーズを紹介させていただきました。リストラティブヨガのポーズは胸を中心に身体が開いているものが多いのですが、なぜかこころは自分の内面を静かに観察できるようになっているのが特徴です。私たちの普段の生活、特に震災後は逆の状況が多いのではないでしょうか。つまり「こころは絆を求めて外を向いているのに、身体は緊張して閉じてしまっている」(自分の内面と向き合う時間をとれない)リストラティブヨガのポーズが、そんな心とからだの状態に変化を起こすきっかけになればと思います。

また、座布団しかないのですが、という質問も出ました。座布団だけで、まるで薄いボルスターのような使い方をして、緊張した腰を緩める方法(座布団を二つ並べて、骨盤を外して横たわり、膝を曲げる)あるいは、ちょうど背中の真ん中あたりから上が座布団から外れるように、同じく二枚の座布団の上に横たわり、腕は軽く万歳して胸を開く方法を紹介しました。

生徒さんたちから多かった声は「自分のために至れり尽くせりしてもらえるということ自体がとてもリラックスできる」ということでした。講座の中で「自己肯定感」「自己受容感覚」こそがヨガが提供できるものではないか、というお話をしました。私たちは自己肯定感をそがれたときに「闘争、逃避モード」つまり、こころも身体もぎゅっと緊張させてしまいます。逆に「受け入れられている、許されている」と思った瞬間、ふわっと緩む(つまり、副交感神経が優位になる)のです。震災後、緊張をずっと解けずにいる人々が多い被災地で、緩めながら回復していく営みとしてのヨガが知られていくことを祈っています。


トラウマ対策としてのヨガを考えるワークショップ

911の米国では・・・
セラピストだけではどうにもならない現実:協業が始まっている
心を開くために、まず身体を開きやすくする(息を吐きやすくする)
ヨガセラピーを学び始めている大半が心理セラピスト→セラピーとしての実効
〜トラウマは生まれつき私たちに誰にでも潜在的に起こり得て続いていくもの〜

日本の被災地では・・
これからが正念場:生活が落着き、客観視する余裕もうまれ先が見えてきた。
我慢強い東北人は抱え込んでしまう→からだをほぐして吐き出しやすくする必要
不規則な呼吸はストレスの原因でもあり結果でもある
ストレス状態の再起動を繰り返しているうちに自己防衛反応が働き過ぎに
自己受容感覚の低下→副交感神経の乱れ→心身の不調・不眠

やってみましょう
ポーズに何かを期待させないこと。自分の内面を観察するだけ、呼吸をするだけ、と伝えます。
サイコセラピーは対話が中心であるのに対し、ヨガセラピーでは「話さない時間」を共有します。傍にいますよ、寄り添いますよ、というメッセージ。
5分間で長過ぎるようならいつでも元の姿勢に戻ってきてくださいと伝えましょう。感情が辛くなりすぎる場合もあるからです。
被災者の方が何かを話したい気持ちになったら、今度はそれを上手に聞いてくれる専門家にバトンタッチできる体制が理想。
靴下をはいたままでOK

みなさんなりのアプローチが大切
ヨガの生徒さんのように身体に意識がある人が相手ではなく、身体って何?気持ちが混乱して(落ち込んで)いっぱいいっぱい、という人が相手だということ。
不安を抱えている人が向上心に溢れているということはまずありません。たくさんの情報を与えるのではなく絞り込んだ少しの情報を丁寧に伝えていく努力。具体的には、日課にしてもらえるように。そのためには「実感」を伴うことが大切。恐れ、痛み、欲求不満などが減ったかどうか。
他の人のプログラムがいいと思わないこと。ベストな解決法が存在するわけではない。取り組む一人一人がベターをつくっていく。
やってみる前からそのアプローチが効率的かどうか悩んでも仕方がありません。やってみて、効果が上がるように探っていくのです

【アプローチ 1】

杖のポーズで片足を曲げて交差します。
軽く前屈して呼吸の音を聞いていきます。
反対側も同様行います。
起き上がるときはちょっと前屈してから起き上がってきましょう。

トラウマがわき上がってはひいていくように呼吸をしていきます。

これはどこでどんなシチュエーションで行えそうですか?

【アプローチ2】

脚を心臓より高くして休みます。
 →首や腰を楽にするにはどうしますか?

これはどこでどんなシチュエーションで行えそうですか?

【アプローチ3】

横たわったシャバアサナ
 →首が楽なようにするには?
 →胸が閉じないようにするには?
 →脚が覆いかぶさらないようにするには?
 →寒くないようにするには?

これはどこでどんなシチュエーションで行えそうですか?

リストラティブヨガ・入門ワークショップ

2012年1月15日

リストラティブヨガの定義 : プロップを使い体を支え、心身がリラックスできる姿勢に整え、深いリラックス状態を味わうことで心身の疲労回復をはかること。

リストラティブヨガの4要素:Darkness 暗く Stillness 静止 Scilent 静寂 Warmth  温かく

リストラティブヨガの手法:ディスコネクト

リストラティブヨガはストレッチではないこと:ストレッチは立派な刺激 
                          →オーバーストレッチをさせない工夫

丹田に力が入らない:意欲がわかない
胸が閉じていると丹田に力が入りません
←被災者の方は自力で胸を開くのが難しい

息を吐きたくても吐けない
←身体が緩んでいないと、上手に吐けない
←直立の姿勢を横にするのではなく、全ての関節が軽く屈曲している状態をつくる

頭を下げすぎると不安
←座っているより楽で、寝転ぶより不安じゃない状態

リラックスの3つの段階:なぜ20分で効率よく疲れが取れるのか

睡眠とリラックスは異なります。寝ても寝ても疲れが取れない、ということがよくあります。
▽(実践)20分間を観察してみましょう。
第一段階:身体的なリラックス  
15分で心拍、血圧などの低下の徴候が現れます。人は体だけであれば15分でリラックスできるのです。15分で眠ってしまったら、慢性的な睡眠不足だと思いましょう。
第二段階 : 外界との遮断 ( Disconnect ) 
100 % 自分の内面にフォーカスできる状態
プラチャハラ(感覚からの離脱)〜 周りで何が起こっていようと、遠く感じること。
第三段階 我に返る
我に返る感覚、自分は確かにここにいる、 No emptiness 
なぜ20分なのか ? 
私たちは生活の中で「Enough - 十分」を知っています。お風呂もトイレも、3時間も4時間入っている人はいません。 逆に言うと、20分で十分なのです。

◎ お米の袋(2kg) を使った呼吸法
                  →ただ仰向けになるときも、どんな工夫ができますか?
◎ 首枕の作り方を覚えましょう。

◎ リクライニングアングルの作り方を覚えましょう
  土台の作り方:
  腕の作り方:
  脚の作り方:
  サポートとは地面と四肢の間を埋めること:オーバーストレッチの防止
◎ ある道具を応用する方法を覚えましょう
リストラティブヨガで覚えておきたいマントラ
スティラム スカム アーサナム が 全てのヨガの基本
「心身共に安定し、快適な状態であることがアーサナである」パタンジャリ ヨガスートラ

以上となります。使用したハンドアウトのテキストだけではわかりにくいかもしれませんが、当日の講座を全国の皆様とシェアし、辛い思いをされている方々にヨガと触れ合うきっかけをつくっていただけるお役に立てば嬉しいです。

RTY 500 岡部 朋子
2012.01.30 Monday 16:21 | ヨガとPTSD (トラウマ) | comments(0) | trackbacks(0)